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垣根 涼介のハードボイルド小説『ワイルド・ソウル』を読んだ感想|日本政府への痛快な復讐劇が最高の傑作

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数十年前に日本政府が数万という単位の人を南米に送り込んで見捨てたという事実をベースに描いた衝撃作『ワイルド・ソウル』を読みました。

 

ドッカーンと衝撃を受けました。こんな非人道的なことが決して遠くない過去に実際に起きていたのかと。そして、『ワイルド・ソウル』はこんな重たい題材からここまで痛快な復讐劇に仕上げたのかと。

 

小説賞三冠をとったのも納得の傑作『ワイルド・ソウル』の感想を書いていきます。

 

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作品概要:『ワイルド・ソウル』とは

ワイルド・ソウル / 垣根 涼介(2004年刊行)

「ワイルド・ソウル」は垣根 涼介が描く犯罪小説です。戦後の復興前にあふれかえる失業者をドミニカやブラジルへ甘言を用いて送り込み見捨てた日系ブラジル人1世2世が40年の時を超えて行う復讐劇。

とにかく壮絶な移民の実態。これがたかだが数十年前の出来事だとは思えないほど非人道的な日本政府そして外務省のやり口。作者自身何度も南米へ飛んで取材したという圧倒的にリアルな描写。そして痛快なリベンジ。エンターテイメントとしてもすぐれた1冊です。


作者:垣根 涼介さんについて

垣根 涼介

著者:垣根 涼介

長崎県出身の小説家(1966年生まれ)。高校卒業と同時に上京し筑波大学に入学。卒業後リクルートへ入社。

その後複数の会社を経験。28歳のときにバブルでマンションを購入も返済のめどが立たなくなり仕事後に賞金を狙って小説を書き始める。初めての小説『午前三時のルースター』が受賞し独立。作家となる。

主に「極限状態で自意識が覚醒する瞬間」をテーマに執筆している。

代表作

冒険、ミステリー系の作品が多いが最近は歴史物にも幅を広げている。

  • 午前三時のルースター
  • ワイルド・ソウル
  • 君たちに明日はない
  • ヒートアイランド
  • 光秀の定理

『ワイルド・ソウル』:受賞歴

以下賞をトリプルで受賞した傑作です。

  • 第6回大藪春彦賞受賞
  • 第25回吉川英治文学新人賞受賞
  • 第57回日本推理作家協会賞

メディアミックス / 関連商品

実写映画『ワイルド・ソウル』は白紙に?

2004年に刊行されたワイルドソウルですが2006年にギャガが映画製作の発表をし2008年公開を目指しました。

日系二世が日本政府に復讐=「ワイルド・ソウル」映画化へ=08年公開予定、アマゾンロケも – ブラジル知るならニッケイ新聞WEB
2006年7月29日付け  「おっとん、おっかん、仇は取るけえね」。移民の恨みを抱え、元官僚を誘拐、外務省を襲撃――。ブラジル日系二世が日本の移民政策の非を追及、復讐を果たす衝撃的な内容と独自の筆致で、二〇〇四年に三つの …

が、どうやらこの実写映画は立ち消えになったそうです。

私自身この作品を読みながら「映像向きの作品だなあ」と思っていたので非常に残念です。

関連商品

関連商品ではありませんが戦後の移民政策・棄民の実態ついての告発本です。

1万6000人もの日本人移民を南米の密林に棄てた外務省。その無情な行政と現地で格闘し続けた担当者が、今なお変わらぬ官僚たちの腐敗と行状を証言する。

なかなかショッキングな内容です。自分たちの税金で日本人が棄てられていたと思うと胸が張り裂けそうになります。

 

あらすじ

1961年。戦後の不況で失業者が溢れかえる日本。日本政府は職を海外に求めて積極的に移民政策を進めており衛藤は妻と弟を連れてブラジルに渡った。バラ色のような説明を聞いていたがその地に着いてすぐに絶望に変わる。聞いていた内容と全く違う秘境。荒れ果てた地。日本に見捨てられた民ー棄民ーになってしまった入植者たち。妻と弟を亡くした衛藤はその地を離れ10年後に再びその地を訪れる。

誰も住んでいないその土地で衛藤は一人の野生児に出会う。村の生き残りで恩人の子であることを知った衛藤はその子(ケイ)を育てることを決意。

約30年後。大人になったケイと衛藤は日本政府に復讐すべく東京を目指す。ケイたちはどのような復讐を日本にするのか?手に汗握るクライムサスペンスです。

 

主な登場人物

衛藤(エトウ)

妻と弟を連れてブラジルへ移住。病で妻と弟を亡くし失意のどん底にいたところを野口という同じ入植者に救われる。秘境の地を出て、入植者達を救うことを決意したエトウは都市に出るも働き口も見つからず貧困と絶望にあえぐ日々を過ごす。10年の歳月を経て入植地に戻り野口のこどもであるケイを拾う。現在はパーキンソン病にかかりブラジルの地から復讐を見守る。

ケイ

野口夫婦の息子であり入植地最後の生き残り。両親が死に半分野生化してたところをエトウに拾われる。非常に大胆な性格で手も早いが冷静沈着なところもある。日本政府への復讐を発案し、実行する。銃器の扱いにたけている。

野口

同じく入植者のこども。幼いころはケイとよく二人で遊んでいた。入植地に限界を感じてた両親とともにコロンビアに亡命する途中で海賊に襲われ一人生き残ったところをマフィアに拾われる。現在は日本で宝石商(裏稼業として麻薬の売人)をしている。

山本

エトウが放浪している最中に砂金の採掘場で出会ったブラジルへの移住者。数十年後に再開し復讐に参加することを決意。ケイや野口とは別行動で作戦の準備を進める。

貴子

元アナウンサーで現在は外務省担当の報道官。元アナウンサーだけあって美人ではあるが仕事がうまくいっておらず落ち込んでいるところをケイに狙われ復讐に巻き込まれる。

 

『ワイルド・ソウル』を読んだ感想

棄民の実態。「アマゾン牢人」と呼ばれた人々

『ワイルド・ソウル』はKindleだと上下巻なのだが上巻は「なぜ彼らは復讐をしようとしているのか」その理由を描いています。

日本政府の想像力の無い移民政策により万単位の人々がどんな苦しみを味わったのか。かなり壮絶です。彼らが復讐しようと決意することも当然と思えるほどに。

大戦後に食糧難に陥った政府が嘘だらけの宣伝文句で移民政策を促進。農地をもらえると思って踏んだ地は町まで船で数週間かかる未開のジャングル。言葉の通じない土地で交通手段・連絡手段を絶たれ、畑も田んぼもすぐ駄目になる土地で原始人のような生活をおくるようになってしまった日本人たち。

領事館にも無視され、祖国からの送金は関連団体に横領され、病に苦しみ多くの仲間が死んだ。生き残って街にでも仕事もなく男は古事記になり妻は娼婦となり日銭を稼ぐ日々。

それが実際にあった出来事だと思うとゾッとします。人はこんなにも残酷なことができるのか、と。

後半は東京を舞台に繰り広げられる痛快な復讐劇!

妻と弟を亡くしたエトウ。実の両親を亡くしたケイは30年後に日本政府に復讐することを決意します。幼いころケイとともに育ったコロンビア・マフィアである松尾とエトウが最近の発掘場で出会った山本を仲間にし日本政府への復讐を計画、実行していきます。

ブラジルに捨てられていった人々の無念を晴らすためにとことんまでに日本を罵倒しコケにする。そのために報道に携わる貴子に近づきます。この怒りの鉄槌はまさに痛快。

暗くなりがちな復讐劇をカラッと描いており後味の悪さをなくしているのはお見事というしかないでしょう。

また、この作品はブラジル、東京ともに情景の描写のリアリティがすごいです。自然の描写、ブラジル人独特の大らかさなどもそうですが私が感嘆したのは東京の描写です。東京に住んでる人ならありありと「今こいつらはここにいるんだな」というのがわかるぐらい実際の地理とリンクしておりリアリティがすごいです。

ネタバレ

最後にネタバレ込みの感想を少し。

復讐劇は最後は主人公が捕まる、もしくは死んでしまうバットエンドがほとんどです。この作品も物語の8割ぐらいまではそういう風な結末になるような進み方をしていました。

しかし、

  • エトウ…復讐を見届けブラジル人として生きていく決意をする。晴れ晴れ。
  • ケイ…復讐を終え海外に逃亡。逃亡先から貴子に連絡を入れてプロポーズする。
  • 山本…作戦を無事完遂するもくも膜下出血で倒れる。目が覚めたとき自身の置かれてる状況をすぐに把握しエトウへの悔恨とケイ、松尾への絆から自ら命を絶つ。
  • 松尾…育ての親に今回の計画がばれて命を狙われる。ギリギリのところで命拾いし、偽造パスポートで日本をたつ。おそらくケイと合流する。

と山本以外ハッピーエンド?です。山本…。

とくにケイと貴子ですよね。この二人は死ぬ、もしくは捕まる方向で話が進んでいたのですが結果的にはケイは逃亡。貴子は会社を辞めてケイに会いに行くという結末で「おぉ!さわやかに終わらせやがった」と感嘆したものです。

この結末があったから物語としての余韻がすごく良くなったんだと思います。

 

最後に

日本人であれば知っておくべき悲惨な歴史。実際に国が国民を捨てたという事実はかなりショッキングです。目をそむけたくなるような描写も多いんですけど、ワイルド・ソウルはそこからの逆転劇が最高に痛快なんです。

是非、一度手に取ってみてください。


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